すべてを知らない自由も満喫する ~ ザ・サークルを読んで

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何か違うのでは。こんなに心がざわざわする小説も珍しいな。
これが、「ザ・サークル」を読んだ感想です。

小説版の「ザ・サークル」は結末が映画とちょっと違う。それにもびっくりしました。

ザ・サークルの文庫本は、上下2巻に分かれてます。
SNS社会の行き過ぎた世界が描かれています。
ザ・サークル (上) (ハヤカワ文庫 NV エ 6-1)
ザ・サークル 下 (ハヤカワ文庫 NV エ 6-2)

「サークル」は最先端のインターネット企業の名前。巨大なSNSを提供している会社です。その会社に就職したのが24歳の主人公メイ・ホランド。映画では、エマ ワトソンが主演で話題の映画です。

私はこの映画を先月、今研修を受けている劇エヴァの仲間と一緒に見ました。
ザ・サークル ~ あなたはどう感じますか? SNSの光と影
https://saorin.websuccess.jp/post-4442/

参加しているメンバーで映画の感想を共有しているとき、師匠の藤村先生が「ザ・サークルは長い小説で、その一部を表現しているから…」というコメントをされていました。そのコメントが気になって、ザ・サークルを読んでみようと思ったのです。

今日はその感想を書きますね。
※ネタバレ注意

すべてを持たないゆとりが大事と思う

サークルは一見すると、理想の会社のように見えます。
夜遅くまで働く社員のために宿泊施設を用意、会社の中ではイベントも行われ、健康管理をする病院もあります。メイの父親は「多発性硬化症」で健康保険では苦労していたけれども、その問題もサークルが解決してくれました。ここのように夢のような先進企業なのですが、私は読めば読むほど窮屈な社会のように感じます。

サークルが急速に発展したのは、今までインターネットで不便だった問題を解決したから。
どんな風に解決したかというと、こんな感じです↓

サークルの創業者タイは、オペレーティングシステムUSOを開発しました。
それは、オンライン上にあるそれまでばらばらで未整理だったもの、つまりユーザーのソーシャル・メディアのプロフィールや、支払いシステム、いろいろなパスワード、メールアカウント、ユーザーネーム、各種設定、どんな細かい設定も、ユーザーの興味に応じたすべてのあれこれをすべて統一するOSです。

そして、今まではサイトやオンラインショップごとに必要だった、IDとパスワード、各種設定を不要にするために、ユーザーのすべてのニーズとツール、とにかくひとつの入れ物にまとめるトゥルーユーを発明します。
トゥルーユーで、支払い、申し込み、メールの送受信などすべてを完結させることができます。
これで、インターネットの世界が激変しました。

Web屋としてお客さまと接していると、仕事がスムーズに進まないことの理由はIDとパスワードを忘れていることが要因になっていることが多いです。だから、すべてのサービスをひとつのID、ひとつのパスワードで利用できるって便利だなと思います。システムに登録できるのは本名で、銀行口座もクレジットカードもすべて連動できるって感じでサークルの提唱する「透明性」があれば犯罪が起きる可能性が極端に減るという理論はわかります。
本名登録が前提のFacebookは、匿名でサービスが利用できるTwitterよりも炎上しにくいってありますからね。

でも、私はそういう世の中は怖いんです。
私、1990年代のパソコン通信から始まり、企業間ネットワーク、インターネット・イントラネットと進化していく過程を、IT業界にいて体感してきました。一般のユーザーさん以上に、デジタルの世界のネットワークの中を生きてきたと思います。

すべての情報がデータベースに登録され、それを24時間いつでも利用できるようになると、人の心を操作することにも使えちゃうんですね。
実際、インターネットでは「行動ターゲティング広告」があって、インターネットでたとえば「旅行」のページをよく見ていると、旅行に関連する商品の広告がよく流れるようになります。
私は職業柄、いろいろな業界の動向を調べたり、会社のホームページを検索していますが、そのときの仕事によってよく見る広告が変わります。専門学校お仕事をしているときは専門学校の広告が、印刷関連の仕事をしているときは印刷会社の広告が、アメブロ、ヤフーをはじめFacebookなどにも表示されます。私のホームページの閲覧状況がWebブラウザを通じて広告配信会社に送られるからです。私は知っているので、それが何を意味しているのかわかるのですが、そうでないと自然と情報を取り込んでしまいますよね。
私自身は、私のインターネット上の行動が収集されているってことを知っていて、収集されてもいいよっていうことを公開しています。自分でコントロールできる状況が好きですね。

だから、小説に出てくるメイのように、実家に帰っていただけなのに、その間に行われていた会社のパーティに出ていなかったと会社の人に指摘されるような環境はなんだか息が詰まってくるように思います。

サークルでは、社員が今どこにいるのかも把握できるシステムが導入されています。
これも私は好きじゃないの。
自分の意志でどこにいるのか公開するのはいいのですが、勝手に探されるのはちょっと困る。

そう言えば、会社で私の部門のスタッフが、Web講習で出された課題をグループで取り組むために2時間ほど会議室にこもっていたときに、その間に他部門のスタッフが彼女を探していたということがありました。
彼女に用事があって困っていたわけで、そのときにサークルのシステムがあるとすぐに解決できてよかったと思うでしょう。探す手間もなくなる。でもね、そんなすぐに解決しなくても、仕事としてはそんなに支障がなかったわけです。本当に彼女がいなくてはならないんだったら、もっと真剣に会社中必死に探しまくると思うから。
そうすると、人は周囲に配慮しなくなってしまうのではないかと思うんですよ。
探されたスタッフは、今度そのような状況になるときは、周囲に声をかけていくと話していました。私、人間にはこのように問題に対処する方法を自分で考えてみるってことが大事と思うんです。

サークルに出てくる事例は誘拐事件のこともあったから、そのときにすぐに見つかったら犯罪が防げたという深刻な問題が出てきます。誘拐や殺人がなくなることは私もいいことだと思います。でもどうなのだろう。将来の不安を恐れて、世界中の人の状態をすべて見える化すると、お互いに『監視』してしまうことにならないだろうか。

そして、その情報を統括している人は、意図的に情報を操作することもできてしまうわけですよ。多くの人は透明化されて考えを持たなくなる代わりに、透明化システムをどんどん考え出す人はいかようにもできる社会になるような、そんな感じを持ちました。

だから、私はすべてを知らなくてもいい、そんな選択肢を持ちたいと思うんです。
それがゆとりかな。

資本主義社会で、一企業が何かを独占するのは、私は社会への冒涜ってさえ思います。
独占したところから崩壊が始まるのは、歴史から学べます。
サークルはそれを忘れてしまったんじゃないかな。

自分の頭で考えることはいつでも大事

そうは言っても、私はゆるやかにつながっていけるSNSの世界が好きです。
先日、Twitterでつぶやいたとおり、私はインターネットには、プライベートでも仕事でもたくさん助けられてきたから。

離婚を考え始めたとき、「家庭こそ大事なもの」という考えの中に押しつぶされそうでした。そんなときに、インターネットで検索してみつけた「母子家庭共和国」ってサイトから情報をもらい、離婚しても幸せに生きられるって確信できました。リアルの関係は大切ですが、価値観が統一されてしまうと、そこからなかなか出られず苦しくなることも多いんです。インターネットは、私の選択肢を広げられた場所。
そして、その当時よりも今はつながりたい人と、双方向でつながれます。そこが好きなんです。

自分が能動的に関わって、素敵な関係をたくさん作れるひとつの道具。それがSNSと思うの。
透明じゃないからそれができるって思うんだな。私はね。

物語の最後に、メイは世界を変える岐路に立たされます。
彼女の選択は、私には考えられないものでした。
そして、その先にある世界には住みたくない。そんな風に思ったのが「ザ・サークル」を読んだ感想です。

IT業にいるのにこんな感想があるから、ざわざわするんです。
ひとりの才能のあるシステムエンジニアと知り合ったら、サークルのような会社を生み出せるんじゃない。本気で思うから、怖いのかもね。


ザ・サークルはこんな映画です。

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 この記事の投稿者

白藤沙織

Web・印刷の株式会社正文舎取締役。 Webプロデューサー 兼 ライター。ときどきセミナー講師。 コーチやカウンセラーの資格を持ち、仕事に活かしています。 ダンス・歌・演劇好き。4コマ漫画のサザエさんをこよなく愛しています。

営業をどのようにしたらよいかわからないときに、Webサイトとブログ、SNSに出会う。以来、情報発信を丁寧にして未来のお客様と出会ったり、お客様のフォローをしています。

仕事もプライベートも「自分の生きたい人生を生きる」ために、「自信や勇気」を届けられたらうれしいです。

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